指寝取り

「それじゃ、早速作り始めて」
ケーキの作り方を説明し終わった先生が、作業を促す。
6時間目は家庭科。
今日作るのはスポンジケーキ。
大体4人の班に分かれ、2人はスポンジ作り、2人はクリーム作り。
「ねえ、始めようか?」
僕は結佳と作業を開始する。
と言っても、生クリームを作る方はホイップしてから味付けするだけ。
はっきり言って一人で済んでしまう。
「うん、僕が混ぜあわせるから味見してよ」
結佳から材料を受け取り、ボールにあけていく。
「えっと、砂糖……どれくらいだっけ?」
「えっと、大さじ2杯?」
クリームに砂糖を混ぜて、泡立て器で泡立てる。

「なぁなぁ、お前見てるだけ?」
隣の班の孝司が結佳に話しかける。
孝司は、彼女と付き合ってる、いわゆる彼氏だった。
たしか……行くところまで行ってる関係だって聞いたことがある。
「なによ、ちゃんと味見するんだから」
「それじゃ、あんまりありがたみ無いけどなぁ……ま、食わせろよ」
「少しくらいなら分けてあげるよ」
なんか、聞いてて……少し気分が良くない。
だけど、あいつは、彼女と……
「……」
白いクリームを撹拌していると、なにやらよろしくない物を想像してしまう。
あんまり妄想を逞しくしてると、よからぬ所に血液が溜まるわけで。
「結佳ちゃん、ブランデーとってよ」
「あ、う……うん」
わざと会話に割って、材料を要求する。
「ち、邪魔するなよな」
そう言いながら、孝司は隣の班の作業に戻っていった。

ブランデーと、そしてバニラエッセンスで軽く味を調えるだけ。
「どうかな……こんな物なのかな?」
「味、見ようか?」
僕は、泡立て器にクリームを掬って、彼女の口に……
「きゃっ!」
付けようとしたら、鼻に当たりそうになる。
「ちょっと、これで舐めろって言うの?」
「ごめん、ちょっと横着だったかな?」
しかし、周囲を見ると……スプーンは全てスポンジケーキ組に使われていた。
「あれ、丁度いい食器がないけど……」
「指でいいじゃない。洗ってるんだし」
ちょっと、一瞬焦る。
「汚い手でしてたわけじゃないよね?」
「うん……分かった」
泡立て器に付いたクリームを指で掬って。
「あーん」
彼女はちょっと舌を出すように、口を開ける。
やましい想像が……彼女の口に合致する。
僕はその唇の中心に指を置いて。
すると、彼女の口がまとわりつくように。
暖かな舌に包み込まれていく。
「ん、むっ……ちゅっ……」
その指の腹に感じる柔らかい圧力が気持ちいい。
僕は、彼女の舌にクリームを塗りつけるように。
指を少し前後に動かして。
「どう? お味は?」
すると、彼女の目がとろんとする。
「うん、ふごく……おいひい……」
そんなに絶妙な味付けだったのだろうか?
でも、指に絡みつく舌が気持ち良くて、
僕はあまり深く考えずに指を動かし続けた。

「なぁ、おまえら何やってるんだよ?」
ふと、気がつくとスポンジケーキ組に睨まれていた。
女の子が指をくわえて、陶酔して……
上半身の力が抜けて、机に突っ伏しそうになってる。
お尻が持ち上がって、横から見れば……いかがわしいことをしているように見えるかも。
「ほら、あなたたち? 何やってるの?」
「あ、いえ……味を見てもらってるんですけど……」
みんなの視線が集中する。
だけど、彼女は舌の動きを止めずに……
「あまひ……あまふて、おいひいの……」
腰を揺らせたまま、必死に僕の指を味わい尽くす。
僕も指がしびれそうに気持ち良くて……前後に動かして。
「お、お前らっ! 何やってるんだよ!」
真後ろにいた孝司も気がついて怒声を挙げる。
「あ、ご、ごめん。すぐ止めるから……」
僕は指を抜こうとして……
強く手を引くと、彼女の手がそれを遮った。
「して、もっと……んちゅっ……」
妨害する彼女と、手を引っ張り合う形になって。
2、3回指は抽送されて、唾液が音を立てる。
「んっ……んんんんんっ!!」
彼女は太ももを痙攣させると……尻を突き上げて。
孝司に見せつけるような格好で。
腰を前後に震わせながら……机に突っ伏した。

力なく開いた彼女の口から、僕の指が離れる。
たらり、と唾液が指から……彼女の唇に懸垂線を引く。
その彼女の唇は、唾液と混ざったクリームで、軽く汚されていた。
まるで、なにかの行為の後のように。
「お、おまえ……こいつに何をしたんだよっ!!」
孝司は僕につかみかかる。
「な、なにって……味見を……」
先生は、結佳の様子を見て……
「あなた、ブランデー入れすぎたんじゃないの?」
「そ、そんなはずは……」
僕は、泡立て器のクリームを舐めてみた。
先生も口に含んで。
「あら……良く混ざってなかったのね。それにしても、結佳さん、こんなに弱いなんてね」
クラスメイトはみんな笑って、それぞれ作業に戻った。
「ほら、あなたは保健室に連れて行ってあげなさい」
ただ、僕と孝司だけは……
全く笑えないでいた。

放課後、僕は彼女が無事回復したか心配だったけど、
孝司がいるのに野暮かな、と思ってまっすぐ帰ることにした。
しかし……校庭を過ぎる頃、そこにいたのは孝司だった。
「あ、結佳は……回復してた?」
「お前なぁっ!」
僕は、いきなり殴られていた。
「な、何するんだ……ゲフッ!!」
「お前のせいだろ! 人の彼女に手ぇ出すんじぇねえよっ!」
うずくまる僕を容赦なく足蹴にする。
「僕は……僕は、ただ、指で、味見してもらっただけで……」
「人の彼女、指1本で寝取ったって言うのかよ!」
孝司は逆上してた。
「ね……寝取り?」
「お前の指の方が、俺のアレよりよっぽどいいんだと! ふざけるなっ!!」
かかとを容赦なく2、3回見舞わされて……
孝司はそのまま去っていった。
「ぐ、い……痛てて……」
立ち上がろうとすると、腹筋がきしんで辛い。
でも、このまま寝てたら大事になるし、
それに腑に落ちなくて……
僕は足を引きずりながら保健室を目指した。

「振られちゃった」
彼女は舌を出しながら、僕にそう告げる。
「なんでだよ。味見して……指舐めてただけじゃんか」
「うん、それで……感じちゃった」
彼女はうつむいて。
「単に、ブランデーで目が回っただけだろ?」
「ううん、あなたの指、気持ち良くて。もう、目の前真っ白」
自嘲気味に彼女は告白する。
「でも、それだけでなんで別れなきゃいけないんだよ?」
「私ね、あいつと……して、いったこと無いの」
「いっ……」
急に生々しい話になって、僕は少し前屈みになる。
「あたしは、それでも気にしないけど……あいつは、我慢できないみたい」
そりゃ、我慢できないかも知れない。
彼女としても全然気持ちよくなってくれないのに、
彼氏でもない僕が、口に指突っ込んだだけで、あんなになったら。
「でね?お願いなんだけど……」
彼女は、目を閉じて……
「……」
僕も、目を閉じて顔を近づけようとしたら、
軽く押しとどめられて。
軽く唇を舐めてから。
「指、もう一度……舐めさせてくれないかな?」
そう言った。

(おわり)
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