無自覚(仮)


「催眠?」
「そうよ? まあ……あまり使い道はないんだけどね」
塔子先輩はそんな話をした。
相手に自覚させない範囲で、相手の行動を操作する。
まあ、なんかのきっかけでばれちゃったらアウトになるらしい。
「だから、掛ける相手とは二人っきりになるのが理想ね。
 なにせ、他の人が騒ぎ出せば絶対ばれちゃうから。
 たとえば、こんな感じかな?」
先輩は俺の胸板に指を突き立てた。
「……えっ!?」
その瞬間。
俺は全く気づいていなかった。
俺が……いつの間にか上半身裸になっていることなど。
「こんな感じ。もしキミが肌寒いな、と思ったらもうアウト。
 だから、ホント使える場面は限られるよ?」

そう、簡単に教えてもらえる代わりに、本当に使えない能力だった。
でも、使う機会があれば使ってみたい能力でもあるわけで。

「うーん、別に一緒に待ってくれなくたって良かったのに」
「まあまあ、せっかくだからさ」
桐枝は美術部で……毎日必ずデッサンをしている。
今日はちょっと彼女に付き合って欲しい用事があって。
先に家に帰って待ち合わせても良かったんだけど。
デッサンが終わりそうな頃合いを見計らって迎えに行ったのだ。
「まだ、かかりそう?」
「ううん、もう終わってるんだけど……
 鍵、先生に渡さないといけないから待ってるんだ」
「あ、そっか……今日、職員会議あるんだっけ」
カーテンの隙間から、外を確認する。
「どう、まだみんないる?」
「うん。まだ掛かるんじゃないかな?」
毎週金曜日は職員会議がある。
そして、終わる頃には顧問の先生が部活を撤収するから
それを見計らって、鍵を渡しに行こうというのだろう。
「じゃあ、俺もちょっと時間つぶしていくか」
それは、逆に好都合だった。

「健二って、昨日うち来てたでしょ。
 姉貴と……何話してたの?」
ぷち。
「あ、ああ……おまえに会いに行ったんだけど、いなかったからさ。
 世間話を」
ぷち。
「嘘ばっかり。あたしが部活で遅いの知ってるじゃん」
ぷち。
そう、塔子先輩と桐枝は姉妹なのだ。
ま、昨日桐枝に会いに行ったって言うのはちょっぴり嘘になるけど、
でも実のところ、塔子先輩に親しくなったのは、
桐枝がいない時に相手して貰ったからに他ならない。
しかし、桐枝はそれを俺が塔子先輩に気があると勘違いしているらしい。
そのおかげで全然仲が進展しないわけで。
「でも、健二も奇特よね……姉貴のどこがいいんだか」
ぱさっ。
「そ、それは言い過ぎじゃないか?」
じじっ……
「ふ~ん、やっぱり惚れた女は魅力的?」
しゅるっ……
「あ、あのなっ?」
ぱさっ。
下着姿で、その……好きな人にそんなことを言われたらたまらない。
だけど、言ってる本人はその気持ちが自分に向いていると気づいていないのだろう。
「だから、おまえは誤解している。俺が好きなのは塔子先輩じゃないぞ」
ぷちっ。
「ふぅん……じゃあ、誰よ?」
ぱさっ。
「そ、それは……」
するっ……
「ゴクリ……」
目の前で、顕わになる茂みに思わず視線が固定されて……喉が鳴る。
「なによ? そんなに私じっと見て?」
「え、あ……ああ……」
あ、危ない。
もう少しで気づかれるところだったかも。
慌てて視線を上げて、桐枝の顔を見る。
心なしか、桐枝の視線が少し俺の股間に向かっている気がするんだけど……
もしかして、勃起しているのがばれているのだろうか?
「(このままじゃ、そのうち怪しまれるかも……)」
そんなことから気をそらそうと。
「だ、だからだな……
 好きな人はいるけど、そいつが俺のこと眼中にないって言うか……」
「ふうん……そんな、身の丈に合わない人好きになったの?」
「うっ……ま、まぁな」
実際、桐枝はかなりクラスでも人気が高い方だった。
明るくって、快活な性格。
顔だって美形……とまでは言わないけど、整ってる感じで。
そして、普段着だと意識しないけど……
「(……)」
目の前にあるとおり、脱ぐと凄いってタイプ。
そもそも、女子の人気があって、
本人は意識していなくても注目を集めてる。
だから、なかなか告れないのは、自信が足りないからって言うのも正直あった。

「(さて、と……脱がすのはいいけど、どうしよう……?)」
脱がせて、じっと見つめていれば怪しまれるだろう。
しかし、意識されないまま、させられる事って限られる気がする。
でも……ここまで来たら。

「そう言うお前こそ、好きな奴とかいないのかよ?」
「え? あたし?」
そう言いながら、彼女の指は自分の顔……じゃなく、股間を指さす。
「あれだけ、クラスで人気があって……浮いた話聞かないからさ」
「う、うん……それなんだけどね……」
少し彼女が視線を落とす。
「(うう、まずっ……)」
彼女の指は、陰毛の生え際をゆっくり撫でていて、
少しきらきら輝く物が見えるような気がする。
そのいじらしい表情と、あまりに刺激的な絵に、
ちんちんがこすれて、妙に快感を感じてしまう。
それから気をそらすためにも。
「ほ、ほら……俺が、協力するぞ? 告白できないなら」
「むっ、何よ……
 自分が告白出来ないくせに、んっ、人のお節介焼くつもり?」
「え、ああ……その、そうだな。
 でも、俺の方は見込みなさそうだしなぁ……」
「ふぅん、そんなこと、言うんだ。
 姉貴だったら……はぁ、その……結構見込み、あるんじゃない?」
「あのなっ、だから……」
すると、ちょっと目眩がする。
もしかして、自然に振る舞ってるけど、
俺、興奮しすぎて鼻血でそうになってる?
「告白、手伝って欲しいなら……はぁ、私が……取り持ってあげる、から……」
彼女の指は、ますます動きを激しくして。
「家に、さぁ……はぁ、来て、よ?」
股間を開いたまま……そういう事を言わないで欲しい。
「だから、はぁ……今日の用事はそれじゃなくってさぁ……」
「んっ、ああっ……!!」
しかし、桐絵はその言葉を最後に、足をがくがく振るわせると、
椅子の上でぐったりしてしまった。

どっと、疲れが出て。
と言うか……
「もう、終わりかなぁ……」
ちょっと申し訳ない気持ちになって。
服を着せようか、と席を立ちかけると。
「ん、どうしたの? まだ……時間あるよ?」
少しまどろんだ感じの桐絵が。
「え、ああ……そうだな」
気を失ってるのかと思ったけど、そうでもなかったらしい。
「(まあ……さすがにこんな場所じゃ、催眠術でもイキきらないか)」
ちょっとほっとした気持ちになるけど、
でも、それは……この緊張した時間がさらに続く事を意味していて。

「(いや、……待てよ?)」
緊張が解けたせいか、ちょっと怠惰な気持ちになっていた俺は、
少し大胆な事を思いついていた。
「(自分からさせれば……気がつかないよな?)」
どっちみち、こうなったら最後、バレて終わるのだ。
だったら、少し、見るだけじゃなくて、彼女の感触を感じたい。
「で、じゃあ……なによ?」
「え、なんだよ」
「さっきの話。今日の用事はなんなの?」
「ああ。お前に見て貰いたい物があってさ」
一応真面目に会話を合わせていたけど、
でも、凄くおっくうになっていた。
もう、こうなったらどうでもいい。
見せて欲しいじゃなくて……もっと、見たいんだけど。
お前の……

「!」
その時。
歩み寄る彼女の足下に、白い絵の具が落ちているのが目に入る。
「(うわ、裸足で踏んだら気付くっ!?)」
いや、バレるのは分かっているけど。
でも、こんな中途半端な場所で……なんて。
だけど。
くちゃ。
「(……あれ?)」
彼女は何も気がつかない風にそのまま。
「そんなの……いいじゃない。今度で。それより……」
俺の膝の上に乗り、でもそれに気付かないのだろうか。
色っぽい表情で、普通に話しかけてくる。
「今日は、聞きたい事があるんだけど」
「俺に?」
「そう、健二に」
桐絵の胸が迫ってくる。
触りたい。
だけど、そんなことしたらバレてしまう。
でも、どうせこのまま体がくっつけば、どうせおしまいなのだ。
だったら……
いや、その前に、せめてキスを……

くちゅっ。
「……え?」
「あ……」
声を上げたのは同時だった。
気がつくと、俺の手はすでに彼女の胸を揉み。
それを確認した俺は、さらに重大な事に気付いた。
「俺……裸!?」
「私……なんで脱いでるの!?」
互いに、自分が裸である事に驚き、
それと同時に、『相手が裸な事に全く違和感を感じなかった』
それよりも。
この異常に気がついたのは……

「ねえ、健二?」
「なんだよ?」
「私……なんか、凄く痛いんですけど」
「そうか? 俺は、暖かくて気持ちいい」
すると、至近距離で叩かれた。
「酷い。どうしてくれるのよ!?」
「それは……お互い様だろ」
ちょっと酷い事を言ったかも知れない。
でも、確かにそれは本当の事だったはずだ。
「私、まだ……健二の気持ち聞いてないのに」
「ごめん……」
だから、俺は……この時間はもう終わりだと思ったのに。
「でも、健二がよければ」
少し涙の浮かんだ瞳でまっすぐ見つめながら。
「続けて、いいかな?」


(終わり)
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