お嬢様(仮)・2


私は、変わらない関係を手に入れたはずだった。
なのに。

「んっ、んっ……」
彼は、いつも通り、私を丁寧に拭いてくれる。
心地いい。
心地いいのだが。
「んぁっ……」
彼の仕事が、次第に不快になり始めていた。

痛いのか?
いいや、気持ちいい。
しかし、故に。
「……お嬢様?」
「なに?続けて」
「はい」
彼は、何事もない様に作業を続ける。
私の変化に気づかないのだろうか。
それは、ありがたくもあり……
いや、だからこそ不快なのだ。
「(私だけ……)」
私だけ、なぜ、このような事態に堪えねばならないのか。

そもそも、心地いいのだから、気持ちいいのだから、
これを止める気は毛頭無い。
そう、止めないためにわざわざ彼を説得したのだ。
そのことは後悔していない。
だけど、不快なのだ。
なぜ、
何故私だけ、このような劣情を催すのか。
冷静な彼の前で、
その気持ちを隠し持たなければならない、自分の存在が溜まらなく不条理で、
いたたまれない。

そもそも、彼がおかしいのだ。
まだ、発育途上とはいえ、若い女の裸体を前にして、
なんの感情も見せずに、冷静に、性器を拭っていることが不条理なのだ。
そう。
だから不快。
自分は何も悪くない。
「(と言うか、使用人なら……お世辞としてでもそれくらいの態度を示して欲しいわよね)」
自分に魅力があるなら、それなりの反応があるはず。
そして、使用人である以上、
自分に、それくらいの優越感を与えてくれても罰は当たらないのではないか?

「(ん? ちょっと待って?)」
しゃがみ込んだまま、自分の脚を丁寧に拭う使用人を見ながら思う。
彼は、冷静に振る舞っているけれど、
それはあくまでポーズなのではないか?
もしかすると、こうしている間にも彼は劣情を催し、
それを、自分と同じように必死に隠しているのではないか?
「(ん~……?)」
そう言えば学校で習った気がする。
男は、割と簡単に劣情を身体に表し、隠すのが困難だと。
それは、股間に現れる。
「……」
彼の、傅いて奉仕する、その奥の股間を凝視する。
しかし、
脚に角度がついたせいでズボンにはしわが寄っているし、
そもそも、黒い色のせいで、その陰影を確認しがたい。
「(あやしい……)」
彼の態度は自然だ。
足を拭うのに、膝を突かぬわけにはいくまい。
しかし、だからこそ、少し引っかかる物を感じた。

「……お嬢様、拭き終わりましたが」
「あー、シュテファン。ちょっとそこに立って」
「ん、なんです?」
「そこに、まっすぐ起立」
「だから、何故ですか?」
「使用人に命令するのに、理由がいるのかしら?」
すると、彼はため息をついて。
「あのですね、私にはお嬢様に逆らう法はありませんが、
 それでもその理由を聞くくらいは許されると思うのですが」
「そうね。あなたのズボンが汚れてないか確認したい、ではダメかしら?」
「汚れてましたか?」
「ちょっと、そう見えたから」
「……解りました」
一呼吸入れて、彼はゆっくり立ち上がる。
しかし、私もとっさにいい言い訳を思いついた物だ。
これなら、じっと彼の股間を見つめていても……怪しまれない。

私は、ゆっくり彼のズボンを確認する振りをしながら、
その一点をじっと見つめていた。
「よごれ……ありますか?」
「うーん、ちょっと待って」
怪しまれない様に、一旦裏へ回り、
そして、もう一度。
しかし、そこはどう注視しても……平常と変化がある様に思えなかった。
「身だしなみには注意しているつもりなのですが」
「でも、拭いてる間に水しぶきが散ったかもしれないし」
「そのような不手際は致しません」
「んー、そのようね」
私はちょっと悔しかったが、何の変化をも見つけられず、
彼の言葉を認めた。
「ふぅ、私は、お嬢様の前でそんな不手際は致しませんよ」
「?」
しかし、彼の言葉に、少し違和感を感じた。
すこし、横隔膜のゆるみを感じさせるため息と、
少し慌てた様な早口。
他に見られては困る様な……やましい物があったのだろうか?
でも、私にはそれは思い当たらなかった。

「だけど……何とかしてちゃんと確かめられない物かしら?」
部屋に戻り、ベッドの中で回想する。
彼の股間は普通だった。
でも、少し解せない。
というか、認めたくない。
諦められない。
もしかすると、拭いている最中なら、変化があったのかもしれないのだ。
「……ん?」
そこで、私は初めて思い当たった。
彼が立つ前に、私と口論をしたのは、
単純にその時間稼ぎかもしれない。
「これは……確かめる価値があるわよね」
答えをつかみかけて、寸でで逃したとなれば、余計諦められない。
すこしぬらりと濡れた股間を指で鎮め、
私は作戦を練ることにした。

次の日。

「でね、シュテファン。お願いがあるのだけど」
「何ですか、今日は」
軽いため息。
どうも……私が彼を困らせるのは日課となっていると言いたいらしい。
失礼な。
とはいえ、あまり間違ってはいないかも知れないが。
「ズボン脱いでから、私を拭いてくれないかしら」
「何ですか、それは」
しかし、何ら驚いた風でもなく切り替えされると拍子抜けだ。
言いたいことはあらかじめ解っていたとでも言うのだろうか。
腹の立つ。
「イヤなら、裸でもいいけど」
「もっとダメです。そもそも、何故ズボンを脱がなければならないのですか?」
「だって、拭いてると、濡らすかもしれないし」
「濡れません」
「もしも、ってこともあるじゃない?」
「無いです。昨日、それを証明いたしましたが」
まあ、これが普通の反応だろう。
そんなことは解っている。
言ってみただけ。
「そうね。じゃあ……いいわ。そのまま、拭いて?」
「……」
あっさり引き下がった私に、少し疑念の目を向ける彼。
そう。
彼の判断は正しい。
でも、その理由は分かるまい。
私は、ちらり、と部屋の隅に置かれた、
水を汲み置いた桶を確認する。

彼に身体を預け、身体を拭かせる。
今日だって、もちろん劣情を催したりしたのだけど、
それはさして不快ではなかった。
その気持ちよさも、この後起こることの高揚をあおり立てる程度の意味しかない。
そして、それを彼に気づかせまいと我慢するのは、
いつもの劣情を堪えるのに比べれば、遙かにまし……
いや、むしろ楽しくて仕方ない。

「……拭きましたよ、お嬢様」
拭き終わり、タオルを置くために背中を向けるシュテファン。
私はその一瞬を見逃さず。
「きゃっ!!」
「……!?」
足が滑った振りをして、彼の方へ倒れ込み、
支えようとする瞬間にその手を取り、
そのまま、手をひねる様にして身体を預ける。
自然、彼は手を取られ、それでも私にぶつからない様に……
身体をひねって。
そして、倒れた先には。

ざぱ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~んっ!!
「……」
「ご、ごめんなさい、足が滑って」
「お嬢様」
「でも、ズボンが濡れてしまいました。急いで履き替えませんと」
「お嬢様。おふざけもほどほどにしていただかないと」
「でも、放っておいたら、風邪を引いてしまいます」
「はぁ……私は、少々濡れても風邪など引きません。着替えてきます」
「ズボンの替えでしたら、ここにありますわよ?」
私は、用意してあった、彼のズボンをぴらり、と見せる。
「……完全に、計画的犯行ですか」
「え? ここに、あなたのズボンが偶然あったから」
「とにかく、あなたの前で着替えるわけには参りません」
「でも、濡れたズボンで廊下を歩いたら……汚してしまいますよ」
「……」
「メイド長に、後で言い訳するくらいなら……ここで着替えましょう?」
「ですが」
「私は黙っていますから」
「……」
私が黙っていることくらいは、彼も端から承知だろう。
きっと、悩んでいるのは、本当にメイド長に怒られる可能性があったからだ。
私の身体を拭いているときにズボンを濡らせた、となれば
あらぬ事を疑われる可能性がある。
私は、自分の立案した作戦が思いの外抜け目のないことに
我ながら感心していた。

「……仕方ありません。でしたら、それ、お借りします」
「はい、どうぞ」
「……」
ズボンを渡し、私は彼をじっと見守っていた。
もちろん、こんなドタバタがあったのだ。
彼の股間に変化があることは期待出来ない。
でも、だけど。
私の前で着替えをする、それを恥ずかしく思ってくれるのではないか。
私の苦悩の寸分でも、彼が感じてくれるなら、
それで満足、のつもりだった。

「……」
いそいそと着替えるシュテファン。
彼は、私に見えない角度となる様に気を遣ったのだろう。
しかし、それは迂闊だった。
背後を見せることを躊躇した彼は、完全に横向きで着替えることになり、
私は、容易に、その場所の起伏を確認出来てしまった。
「(あれ、もしかして……)」
見たことはないので、それは良く解らなかったのだけど。
彼の股間は、
おそらく平常とは思えない……盛り上がりを見て取ることが出来た。
「(その、あれ……普通の大きさ、ってヤツじゃ無いわよね?)」
意表を突いて、もたらされた事実に。
私は、少し……身体の芯が熱くなるのを感じていた。

「シュテファン?」
「お待たせしました。何ですか、お嬢様」
私は、努めて冷静に。
「唐突なことを聞きますが」
「お嬢様はいつも唐突です」
「……私は、魅力的ですか?」
彼は、私を見つめて。
でも、まだ裸だったのでさっと目をそらせてから。
「今更、当たり前のことを確認しないでください」
それは、たぶん……一番つまらない返事だったと思うのだけど。
「そう。ありがとう」
何故か、私はとても満足していた。

(続く)
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