甘い檻


2の11

「うっわ、緊張した……」
もし、少し前に生理で休んでいたらどうしよう……と思って
すごく心配になったんだけど、
体育の先生に『生理なので休みます』と言ったらあっさり認めてくれた。
『見学はいいから、教室で自習していなさい』
といわれて、ちょっと得した気分。

しばらく、雅美の席に座ってぼーっと過ごす。
いつもびくびくしているか、
ゆりねと話してばかりだったわけだけど。
こうして一人でいると、ちょっと不思議な気持ちになる。
「雅美なんだよな……僕」
目をつぶっていると、蒼太だったときの自分と何も変わらない。
でも、目を開けると……
僕はスカートをはき、
眼下には男の自分にはあり得なかった双丘が見える。

「……」
何となく、胸に手を当ててしまう。
少しどきどきしている……左胸は、
手のひらに柔らかい感触を与えてくれる。
うれしいような、
悪いことをしているような、
それでいて自分の胸を触って……といったむなしい気持ちが
同時にわき上がって何か複雑な感じ。
「そっか、今日は……『私』は生理なんだよな」
そうつぶやくと、つい……意識が下半身に行ってしまう。
「なんか詳しいことは分からないけど
 ……大変なんだよな」
興味があるくせに、
でも……もしかすると止まらないかもしれない罪悪感なのか、
それとも、建前でも生理なのだから……という義務感なのか、
自然と手が止まってしまった。
「だめだよな、変な悪戯したら」

胸を触った高揚感はすでに忘れて……
ふと思い立ち、僕は教科書を開く。
「せめて、漢文の課題……進めておかないと……」
ゆりねに迷惑をかけたのだ。
少しくらいは誠意を見せておきたかった。

2の12

「じゃあ、始めましょうか」
放課後、僕たちは図書室へ移動して、
古文の授業の終わりに言い渡されていた課題を始める。
「あ、少しだけだけど……進めておいたよ」
「もしかして……体育の授業中?」
「ああ。時間もったいないからね」
一人で進めていたし、
資料がなかったから……あまり進んでいなかったけど。
「じゃあ、残りを山分けしましょうか」
「うん。せっかくだから続き、やらせて」
「私は……後半。
 この辺からでいいかな?」

図書室の席に向かい合わせに座って、二人で黙々と進めていく。
「……」
真剣な表情で、黙々と課題を解いていくゆりね。
すると、僕の視線は……
どうしてもうつむく彼女の胸元に行ってしまう。
角度がちょうど。
少し薄暗くなった彼女の胸の谷間あたりに行ってしまうのだ。
ゆりねの胸は……それはちょっと触ってみたいな、
と思うくらいのふくらみを有していて……
(……ごめん、雅美)
視線を落として、
自分の……いや、雅美のと比べると一目瞭然だった。
雅美の胸だって、
さすがに違和感を感じるくらいの存在を主張している。
だけど、それは自分の胸だからであって、
僕が男だった?時には
あまりそれを評価したことはなかった。
たしか、それで……雅美がふてくされたこともあったっけ。
「あれ? 雅美……手が止まってるよ?」
気がつくと、
ゆりねがいぶかしげに僕の方を見つめていた。
「え? あ……
 あはは。ごめん、ちょっとぼうっとしてた」
「だめだよ、ちゃんと……早くすませちゃおう?」
「そうだね」
軽く首を振って煩悩と退散させる。
今は、課題に集中しなくちゃ。

2の13

「やっと終わったね」
「ごめん、足引っ張っちゃったかな?」
結局……僕は集中できずに、
最初の分担のかなりの量をゆりねに手伝わせてしまった。
だけど、ゆりねはそんな僕を責めもせず。
だから、せめて片づけは一人ですると言ったんだけど、
一緒に来てしまった。
「えっと、これ……上の棚かな?」
「あ、じゃあ僕が
 ……っと、私がする」
僕は脚立を持ってきてから、本を受け取ろうとしたけど、
「いいよ、台に乗れば私にも届くから」
お構いなしに脚立に乗って、本棚に手を伸ばす。
ゆりねの背は決して高くない。
雅美の身長ならともかく、
ゆりねでは一番上の段の棚は辛いのでは……
「んしょっ……」
案の定、ちょっと手元がおぼつかない。
「私が代わるよ」
「いい。もうちょっと……
 ほら、入っ……きゃっ!」
本をかろうじて押し込んだ瞬間……
背伸びをしていたゆりねの足下がふらつき……
「あ、あぶなっ……」
ドスーンッ!!
あわてて抱きついた僕に折り重なるように……
二人とも床に倒れてしまった。

「……」
「……」
ゆりねの体を支えた、雅美の手のひらは
ゆりねの乳房をしっかりと支えるように……
要するに、僕はゆりねの胸を揉む格好になってしまっていた。
「えっと……」
「あ、
 ご、
 ごめん……」
手を引っ込めようとしたけど、
僕の手がゆりねの体を支えているわけで……
ゆりねが体重を僕に預けている限り、手を離せない。
僕の意志にかかわらず、適度な圧力で押しつけられたそれは、
心地よい柔らかさと、暖かさを雅美の手のひらに与えていた。
「謝らなくたっていいじゃない?
 今、雅美なんだし」
「って言ったって……中身は僕、蒼太だよ?」
「ふふっ……どう、実際さわってみて」
「え?」
ゆりねの問いに、僕は……言葉を失ってしまう。
「だって、ずっと見てたでしょう?
 わたしの……ム・ネ」
「……」
そう、気づいていたのだ。
僕が課題をはかどらない理由も。
いや、もしかして……少し見えるように角度を合わせて、
反応を……楽しんでた?

2の14

「……」
でも、さすがにちょっと大胆すぎたと思ったのだろうか?
体を預けたまま、ゆりねは少し赤くなって……うつむいてしまった。
ドキ、ドキ、ドキ……
右手に伝わってくるゆりねの鼓動。
そして……雅美の体も、早鐘を打っていた。
そんな間に、微妙に居たたまれなくなって……
「あ、え、えっと……やわらかいよ?」
あわてて言葉をつなごうとして……素直に感想を言ってしまう。
何言ってんだよ、僕……
でも、ゆりねは怒ることもなく、普通に答えてくれる。
「そう?」
「うん、雅美より大きいし……」
そんなことを言いながら、なぜかちくりと胸が痛む。
それと裏腹に、ゆりねは心持ちほほえんだように感じた。
「ごめん、乗っかったまんまだったね。ほら……起きよう?」
ゆっくり、体を離して……
僕はまたゆりねに助け起こされていた。

(つづく)
SSindexに戻る
topに戻る

inserted by FC2 system