甘い檻



5の7

「びっくりした?
 いやーだって、すごい物音がしたから。
 もー、へたっぴだよね。
 だから前だって見つかるんだって言うの」
雅美は心配なくらいまくし立てた。
雅美のおばさんはまだこの時間は寝てない筈なんだけど……
だから、僕の心臓は縮こまってしまって。
それをほぐすために深呼吸をすると、
嗅ぎ慣れた雅美の匂い。
それは僕の気持ちを落ち着かせてくれたけど、
僕の体は逆に興奮していた。
「ん?あ、母さん?
 大丈夫だって。
 この時間はイヤホンしてテレビ見てるから聞こえないって」
「そっか、そうなんだ……」
ようやく雅美の傍若無人な振る舞いに納得して、気持ちが落ち着いた。
「やー、朝から電話したのに全然繋がんなくって流石に焦ったよ」
「心配した?」
愚問をあえて聞いてみた。
「まっさかー」
「だよなー」
二人でけらけら笑いながら、僕はこっそり落ち込んでみた。
「まー、それどころじゃなかったしね。学校の方が」
「なんかあった?」
ゆりねの顔が一瞬浮かんで冷や汗が流れる。
「まーねー、
 一限目いきなり古文で焦ったし」
なんか……似たような場面を追体験してる?
「いつも通りゆりね頼ろうとしたらそっぽ向くしさ」
でも、結局……雅美はその話題に触れた。
中身が変わっても、結局……
ゆりねは雅美を許してはくれないのだろうか?
「……ごめん。雅美。
 僕……ゆりねと喧嘩して」
「ううん、いいの。判ってたし……こうなるの」
「え……?」
驚いて見上げると、雅美は少し寂しそうな顔をしていた。

「蒼太は知らないと思うけどね。私、ゆりねと喧嘩してたから」
「えっ……!?」
それは、思いもよらない事実だった。
ゆりねは入れ替わったはずの……
一番最初の日から、優しく接していたから。
しかし、それが違うって事は。
「ごめんね、幻滅……したかな?」
少し表情をのぞき込むように、雅美は聞いてきた。
「そ、そんなことは……無いけどさ……」
自分が感じていた、雅美の印象、ゆりねの印象。
それは……その一言でがらりと変化した、と言っても過言ではなかった。
だけど。
それでも……どんなに考えてみても、
自分が抱いたゆりねへの気持ち、雅美への気持ちは変わらない気がする。
きっと、ゆりねも、雅美も……
自分に対して抱いていた気持ちは、想像している通りのものだろうから。

5の8

「だからね、まー、ゆりねに嫌われちゃったけどさ。
 でも、喧嘩の原因は私だったし」
喧嘩の原因はたぶん、ゆりねに言った嘘で。
「結局、自業自得なんです。
 蒼太は気にしなくていいよ」
それは自分が雅美の変化に気づかなかったから。
そして、それなのにゆりねに『僕』が優しくしたから……
「それよりさ、聞かせてよ。
 私の体の中にいた時のこと。
 私も興味あったから……」
僕は雅美の言葉を最後まで聞かず……
「……きゃっ!? え、な……何?」
彼女を抱きすくめていた。

「え、えっと……」
「違うんだよ。雅美……お前のせいじゃないんだ。
 ゆりねを……小倉さんを傷つけたのは」
「……」
「お前に嘘を言わせたのも。
 小倉さんにひっぱたかれたのも……」
「ひっぱたかれたの?」
「……ああ」
「そんな、酷いこと言ったのかな?」
「……ああ」
「だったら、謝ってきて」
「それは、出来ない」
「なんで?」
「……僕が雅美の中にいた時のこと、聞きたいって言ったよね?」
「話、逸らさないで」
「それも、出来ない」
「なんで?」
「ずっと、もどかしかったよ……
 こんなに近くにいたのに、
 ずっと出来なかったから」
僕はもう我慢が出来なくて、雅美の言うことを全然聞いてなかった。
「ちょっと落ち着いて。離れようよ」
僕の下で、雅美がもがいた。
「ずっと、抱きしめたかった。
 こうして、雅美を……抱きしめたかったんだよ!」

5の9

「……」
抱きしめていると感じる、雅美の胸の柔らかさ。
洗い立ての雅美の髪の匂い。
雅美の中にいる時だって、ずっと感じられたのに……
改めて、蒼太として、感じているそれは明らかに違う感動があった。
だけど。
「だめ。今は……だめ」
「どうして?」
「約束だから。ゆりねとの……」
「え? それって……」
「二人で、蒼太の気持ちを聞く。
 それまでは二人とも何もしない。
 そう言う……約束」
「……」
それを聞いて、初めて……ゆりねの最後の言動の意味が分かった。
僕は約束を台無しにしてしまった。
蒼太として、そして……おそらく雅美として。
「だったら、終わったことだから」
「え? ……それ、どういう意味?」
「これから、雅美に伝えるから。
 僕の気持ち。
 それで、その話はおしまい」
「え? え? ちょっと待って。なんで……」
「僕は、雅美が好きだ。
 だから……雅美を、今から、抱きたいんだよ!」
雅美の顔がかぁっ……と真っ赤になる。
そして、目が泳いで……
まっすぐ見つめる僕の視線に、合わせづらそうに視線を合わせて、
その綺麗な唇がふるふる震えて……
複雑な気持ちの葛藤が、見えてきそうなくらいに判った。
「その、それはね、えっと、だから……でも、
 だけど、約束だから……」
「もう、小倉さんには伝えたんだ。
 最後の日に」
「そ、それって……っ!?」
「だから、雅美は悪くないよ。
 ゆりねを泣かせてしまったのは……やっぱり僕のせいなんだ」
「だったら……謝りに行こう?」
「謝ってどうするんだよ!?」
雅美の目が泳ぐ。
「雅美……もしかして、僕のこと、避けようとしてる?」
「そ、そうじゃないけど……」
「じゃあ、なんでこの場から逃れようとするかな?
 まさか、本気で小倉さんに会いに行こうとか思ってないよね?」
「……」
「僕のこと、いやだって言うなら……いいよ、やめるから」
本当はとても我慢できる状況じゃないけど。
でも、自分を落ち着かせるためにも……わざと冷静にそう伝える。
「そっ、そんなんじゃなくて……」
「っていうか、
 そもそも、雅美の気持ちを……僕は聞いてないよね?」
「えっ……?」
真っ赤になっていた顔の色が、みるみる退いていく。
「雅美は、どう思っているのかな?
 僕のこと」
「そっ……そんなの、い、今更っ?」
そして、また眼球がせわしなく泳いで……
「い、言わないとダメ?」
「言ってくれないと、強姦になっちゃう」
「てか、するの確定?」
「否定してくれれば、回避できるかも」
「じゃ、確定なんだ……」
そう言って、僕の表情をのぞき込む。
どうも、今の言葉で察しろと言いたいらしいけど、
僕はわざと表情を変えない。
「……やっぱり、ちゃんと言わないとダメ?」
「判ってるなら、行動しよう」
「……」
決まり悪そうに、僕の顔をちら、チラと見ながら。
「私は、私、和久井雅美は……柳井蒼太が、す……」
「……」
「すーすー」
「……」
口をとがらせて、僕の表情を見る。
どうも、僕が照れて止めるのを待ってるみたいだけど……
それが叶わないと知って、落胆して。
「すきです」
「えっと、よく聞こえない」
「い、いじわる……」
顔を真っ赤にして、雅美は身をすくめる。
だけど、容赦しない。
目を閉じて、意を決して……
「私はっ! 好きなの、蒼太がっ!
 ずっと、ずっと……抱きしめて欲し……んぐっ!?」
でも、結局僕が我慢できなくて……
必死に叫んでた雅美の唇に……吸い付いていた。

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「ちゅっ……んっ、んん……」
少し苦しそうに、雅美が呼吸を求めて、
胸が迫り上がり、その気持ちいい感触を僕に押しつける。
「ふむっ……んっ、ちゅっ……」
夢中で雅美の唇を吸って……
くらくらしそうになってから、酸欠にやっと気が付いて。
「ぷはっ……はぁ、はぁ……」
「はぁ……な、何よ……結局関係ないじゃない」
勝ち誇ったような、言わされ損と言いたげな、
そんな顔で不服を申し立てる。
「いや、確定したかなって。見切り発車」
「確定も何も……」
少し視線をそらせて。
「そんなの、ずっと前に確定してるじゃない」
「……いつから?」
「……、
 ……教えてあげない」
その無言の分、時間を感じて……
「じゃあ、その分……いっぱいしよう」
「いっぱいって……なにを……?」
雅美が少し間抜けな疑問を口にしている間に、
僕の指はすでにズボンの紐を持ち上げていた。
「えっ……えええっ!?
 てか、上、裸っ!?」
慌てて胸を隠そうとして、
無防備になった下半身から、遠慮無くズボンを抜き取る。
「あ、あわわわ……ちょ、ちょっと蒼太っ!?」
「あんまり騒ぐと……おばさんに聞こえるんじゃない?」
落ち着いて、背面歩行で逃げようとする雅美の足を押さえて、たしなめる。
「そそ、そんなことより……なんでこんな脱がすのうまいのよ?」
「そうかな?」
「ほ、他の子としたでしょ!?
 ……まさか、ゆりねとっ!?」
「あのな。
 雅美の時にさんざん着たり脱いだりしたから慣れたんだよ」
「たった4日で?」
「4日も。っていうか、素直に尻、持ち上げようよ」
口論の間も、僕は遠慮なしに雅美のパンティに手を掛けていて。
「あ、ちょ、ちょっと……ほら、蒼太が服着たままだから」
「往生際悪いなぁ……」
「あんたが服着たままなのに、私だけまっぱな方が不条理でしょう!?」
まあ、でもそれも一理ある。
僕は上着を脱いで。
ズボンを……
「……っと、じゃあ雅美が脱がせてよ」
「え? 私が……なんで?」
「不条理だろ? 僕だけ一人で脱いだら」
「……@@!!」
抗議が声にならない雅美に構わずに、正面に立つ。
すると、股間が雅美の顔のすぐそばに来るわけで。
「え、えっとこれ……このまま脱がせていいの?」
ズボンの中でひくつくそれに、おびえながら……
「ああ、出来れば……優しく脱がせてよ。暴発するから」
「え、ぼ……暴発!?」
雅美はさらにおびえながら、不器用にベルトをはずす。
その振動が気持ちよくて、
ズボンの中で、興奮の収まらないそれはびくびくとふるえる。
ボタンをはずし、ファスナーを下ろして……
僕もパンツ一丁にされる。


(つづく)
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