15分÷20秒


1)
「今年は絶対勝つ!」
「何言ってんのよ、無理に決まってんじゃない!」
明美は、健太の頭をぺちんと叩く。
「てーなー、女なんだから、少しはお淑やかにしてみろよ」
「そーゆー台詞は、あたしに勝ててから、聞きたいね」
「くそっ! 今年は必ず勝ってみせるからな!」
「本当に、勝負になるんだか」
肩をすくめる。
今日は全校柔道大会。
参加者が少ないせいもあり、男女混合だったのだが……
去年の大会では、健太は決勝で明美に10秒一本負けを喫していた。
「よし、賭けをしよう」
しかし、健太はそう宣言する。
「勝った方が、負けた方に好きなことを命令できる」
「ふぅん……いいの?」
「ああ。俺が勝ったら……そうだな。
 たとえば女子部のみんなに、男子部員の乱取り相手を……」
健太の顔がにやける。
「スケベ。アタシに勝てるわけ無いじゃない。
 でも……男子部員に投げの練習台になってもらうのもいいわね」
「じゃあ、決まりな。決勝で……首を洗って待ってろよな」
「そっちこそ」

2)
「あー、かわいそうに。それは無茶よ」
女子副部長のマキはため息をつく。
「しょうがないじゃない。相手から言ってきたんだし。
 でも何させようか……ひひひ」
「賭けねぇ……」
「練習が終わったら、マッサージさせるのもいいわね。それとも……」
「ねえ、明美?」
マキの声に振り向くと……彼女は明美の目をじっとのぞき込み……
「……っ!!」
額に指を当てた。
「なっ……なにっ!? なんの暗示をかけたの、マキっ!?」
慌てて明美は後ずさる。
マキは暗示を得意としていた。
副部長の実力もあったが……
その特技のせいで、女子部員はみんな彼女を恐れている。
「ハンデよ、ハンデ。明美が男に触ると……」
「触ると……?」
「感じちゃう。ずっと触ってるとイッちゃうくらい」
「え? ……ええええっ!?!?」
急な話で、一瞬ぽかんとするが……それがとんでもないことだと直ぐ気づく。
「ちょちょ、ちょっと……! これから大会よ!?」
「うん、そうだね」
「男と対戦したら……勝てないじゃない! それどころか!」
「まあまあ。明美が気になる男じゃないと感じないし、
 べったり触れなかったら感じないよ」
「気になるって……どれくらいよ?」
「そうね。少しくらいなら影響ないんじゃない。目安としては……」
少しいたずらっぽくほほえんで。
「普通に付き合うくらいの好きな人なら、
 普通に触って15秒でむずむずし始めて……1分でイッちゃう」
「ええっ!? 試合3分もあるのに……短すぎ!」
「そんなこと無いでしょ。袖掴むだけならセーフだし。
 投げなら一瞬。
 押さえ込みだって……最大30秒。イクことはないよ」
「そ、そ……そうね。言われてみれば。
 全員一本勝ちなら、関係ないか」
そう、明美は自分に言い聞かせる。
「ま、これで……本当に好きな相手を見つけてみたら?」
少し意味深に、マキは笑う。
「それってどういう意味?」
「ほら、出番よ。がんばってね~ω」
マキに背中を押されて……
少し不安を引きずったまま、彼女は試合に臨むことになった。

3)
準決勝。
相手は……男子副部長の新井だった。
「お願いします」
「はじめっ!」
新井は、男子きってのイケメンだった。
それでいて柔道一筋。健太に負けないくらい打ち込んでいて……好感度も高い。
女子の部員は、全員彼に一度はときめいた、と言われるくらいである。
それは、明美も例外ではなく……
「(大丈夫かなぁ……)」
彼女が、今大会で一番不安視していた相手である。
もっとも、性的な意味でのみ。
実力は……去年、健太に30秒一本負けしている。
「(まあ、勝つだけなら何てこと無いんだけど……)」
出来れば、接触面積を最小にして勝ちたい。
しかし、さすがに単純な出足払いや、見え見えの大外が通じる相手ではない。
新井は、長身を生かして距離を取り、小足を当てて明美を牽制している。
「(小技を試すよりは……大技ですぱっと行っちゃった方がいいか)」
たとえべったり触れても、投げてしまえば1秒に満たない。
明美は覚悟を決めて……新井の懐に潜り込み。
「えいやあああっ!!」
身体を密着させ……両手背負いで一気に投げる。
「うあっ……!!」
瞬きする暇もなく、新井は宙を舞い、畳にたたきつけられていた。
「一本っ!!」
「……ありがとうございました」
畳を降り、明美に残ったのは一本勝ちの爽快感と……
「(大丈夫! 全然……これっぽっちも感じないじゃないっ!!)」
勝利の確信であった。
「やっぱり……おまえが来たな。不戦勝にならないかひやひやしたぜ」
「あのね。それはこっちのセリフでしょ?」
決勝は、予想通り健太とだった。
実力の上では、明美に次ぐ相手。
一番手強い相手なのだが……全然恐れることはなかった。
「(ま、あいつとはいつもじゃれてるし。興味関心は全然無いしね)」
ちょっと可愛そうであったが、
健太は男子部員では気兼ねないので一番練習相手をしている。
そして弱点も良く解っていた。
安心して……
「はじめっ!!」
明美は健太と組んだ。

4)
健太は、引き手に気を取られて足下がおろそかになる傾向がある。
普通の相手なら彼も強引に耐えるのだが、
明美の瞬発力はそれを許さずに投げきるだけの実力差があった。
正面からがっちり組んで、身長差を生かして強引に下に引く。
「くっ……」
苦しそうに上体が逃げるのを見計らって、身体を預けるようにしながら足を刈る。
大内刈り――
完全に決まるタイミングだった。
しかし次の瞬間、明美の足は宙を切り……身体が浮き上がる。
「(お、大内返しっ!?!?)」
明美は完全に抱え上げられていた。
もう、浮き上がった身体をコントロールは出来ない。
強引に……身体をよじるしか、道は残されていなかった。
どざーーーっ!!
「技ありっ!!」
おおおーーーーーーーーーーーーーーっ。
場内からどよめきが起きる。
明美は、押さえから逃れるために……
それより何より、身体を離すために直ぐに立ち上がる。
「(う、うん……大丈夫、大丈夫……)」
身体に異変はない。予想通り、健太には……何もないだろう。
しかし……
「(くっ!! こんなに……強くなってるなんて……)」
完全に油断した。勝ち急ぎすぎた。
彼は自分の技を研究していたのだ。そして、渾身の返し……裏投げ。
返し方だけではない。
あの瞬間に反応出来る瞬発力。
おそらく、知らないところで……それこそ猛特訓してきたのだろう。
自分に、勝つために。
「(……)」
何故か胸が高鳴るのを感じる。見直した、と言うか、これは……
「(そうね、武者震い……よね?)」
相手は去年みたいな、無様に10秒で一本負けするような弱い相手ではない。
それこそ、自分のすべてをぶつけて、勝ちに行かなければ……
勝てない相手なのだ。

5)
健太はゆっくり起き上がり、自分に向かって構え直す。
「はじめっ!!」
明美は、もう身体の接触を忘れて技を猛然と掛けに行った。
大腰、一本背負い、諸手刈り、内股……
身体が触れても関係ない。
相手に技を出す隙を与えずに、一本勝ちを狙いに行く。
しかし、残り時間は一分を切った。
「(このままじゃ埒があかないか……)」
明美は闇雲に技を掛けるのをやめ、
重心を振り回すように、左右に揺さぶりを掛ける。
少し疲れの見え始めた健太は、重心移動の早さに対応しきれず……
「くっ……しまっ……!!」
「えいやっ!!」
「(やったっ!)」
大腰に、ようやく健太の身体が捕まった。
体勢不十分に……健太はなんとか転げて一本を逃れる。
「技ありっ!」
そのまま、すかさず明美は健太を追って押さえ込みに入る。
しかし……
「……」
明美は一瞬躊躇した。
体勢は横四方が自然だったが……それではうつぶせに健太に抱きつくことになる。
「(万一、感じたら……)」
押さえ込み中に健太がもがいたら、自分の胸が刺激されるかもしれない。
暗示が効かないとしても、ちょっと意識してしまう。
その躊躇が、強引に別の技に走らせた。
健太がするりと身体を外しそうなところを、強引に身体をかぶせて、
押しつけるようにして腕を奪いに行く。
「押さえ込みっ!」
明美は袈裟固めを選び、押さえ込みが開始された。

6)
が……
「……!!!」
明美は、押さえ込み開始5秒で自分の判断の愚かさを知った。
「(か、感じて……るっ!?)」
感じ始めて、初めて知った。
袈裟固めは……なにげに横四方より、接触面積が多いのだ。
触れるのは背中とはいえ……包み込まれるようにべったりと触れてしまっている。
そして、何よりさっきの胸の高鳴りは、ただの武者震いではなかったのだ。
「(うっ、うううっ……!! 何、この感じ方っ!?)」
数秒しかたっていないのに、身体の芯から快感がわき上がる。
というか……
『さわり初めて15秒で感じ始め、1分でイッちゃう』
「(5秒よっ!? 感じ始めたのっ!?)」
立ち技の時に触れていたとはいえ……早すぎる。
接触面積が大きすぎるのだろうか?
それとも……自分は、この男の事を……!?
パニックを起こしそうな脳みそを必死になだめ、冷静に計算する。
「(技ありは取ったから、寝技は25秒で合わせ一本のはず)」
要するに、25秒我慢すれば、解放されるのだ。しかし……
「(普通15秒が5秒で感じ始めたから、最悪イクのは)」
1分÷3。子供でも出来る計算だった。
「(最悪、最速……20秒っ!? 間に合わないじゃない!?)」
それを暗示するように、もう彼女のあそこは、
愛液が溢れているのを感じられるくらいになっていた。
「(い、いやああっ!! そんなあっ!!)」
必死に身体を離そうとする。
しかし、袈裟固めで身体を離してしまっては……
体重のない明美では、男の健太相手では簡単に返されてしまう。
もう、腰がビクビク跳ね始め、思うように体重をコントロールできない。
時計は、まだ10秒も回っていない。
こんな時だけ……秒針はまるで止まっているかのような緩慢な動き。
「(あうっ、だめ……そんな、なんで……っ)」
目が游ぎ、観客が目に入る。
なまじ、仰向けで押さえ込む技を選んでしまったために、
全校の学生が、自分を注視しているのが見える。
感じて、身もだえしている自分を。
感じ始めている、自分の股間を。

7)
「(いやぁ、あたし……変態になっちゃうっ!!)」
みんなに見られながら……千人近い学生の、それに先生も加えて。
二千の瞳の視線を感じながら。
健太に身体を預けて、
感じて……絶頂しそうになってるっ!!
「あふっ、ああっ……はあああっ……」
思わず、喘ぎ声が漏れる。
しかし、見ている学生たちは、いや審判すらも。
明美が息を切らしているだけと思っているらしく、
違和感もなくじっと見入っている。
その視線が、自分のあそこに突き刺さるのを感じて、下着の冷たさを更に認識させられる。
これが、汗の冷たさなら、ただの不快感で済むのに!
明美の下で、容赦なく健太がもがき、抵抗する。
身体が揺れ、背中に当たる胸板が、まるで愛撫のよう。
もう、このままうつぶせになって、健太を抱きしめられたい……
「(な、何考えてるの、あたしっ!?)」
頭によぎる映像に身震いする。
脇に固めた健太の腕が、むんずと自分の胸を揉みしだき、
首筋に息を吹きかけながら……自分のへそを、下腹部を……
そんな連想が、股間の突起を硬くしこらせる。
「(ううっ、ちがう、違う!!
  あたしは健太に勝つのっ!! 絶対負けない!!)」
そうだ、健太に勝って……あれ?
どうするんだろう?
別に、勝ちにこだわらないなら、ここでうつぶせになったって……
「(じゃなくてっ!!)」
気を緩めると、直ぐに身体の誘惑に思考が引きずられてしまう。
落ち着くんだ。
絶対勝ちたいというプライドは譲れないし、
第一解放したら、もうとてもじゃないけど試合できる状況じゃない。
それより何より……
今の顔を、健太に見られるわけにはいかない!
そんなことになったら、健太との
折角の気の置けない関係だって……壊れてしまう。
でも……

8)
時計の秒針はようやく20秒に届こうとしている。
もう、太ももは痙攣して言うことを聞かない。
背骨が、快楽にゆがめられて、ブリッジしてしまいそうだ。
乳首がシャツ越しに、ごわついた道着にこすられて、これ以上なく勃起している。
下で逃れようと健太が暴れる度に……子宮に鈍い快感がこだまする。
そしてそれ以上に、くちゅっ、と微かな音を立てて溢れる愛液が……
そのにおいが健太に知られそうで。
「あふっ、ああんっ……だめ、だめっ……行かないで……っ!!」
必死で、背中ですり抜けようとする健太の身じろぎを押さえ、
そのたびに感じる彼の体温。
意識する度に、身体が快感に支配されて。
冷たいパンツの中心で、クリトリスが熱く勃起し、脈打つ感触。
「いいっ、いっ……いっ……」
秒針が20秒を回る。
21、22……
もう、明美の身体はがくんがくんとバウンドして……
「あっ………………ああっ!!
 ひああああああああああああああっ!!」
観客の痛いほどの視線と、健太の体温を感じながら……
明美の意識は真っ白になり、
のけぞるように、全身の筋肉をピンと張って……
無意識に、彼の身体にその身をゆだねていた。

9)
「技ありっ、一本っ!!」
わああああっ!!!
場内がどよめく。
「くっ、くそっ……くそおっ!!」
明美の身体が不規則に揺れたせいで、
健太は最後まで逃げも、返すきっかけもつかめずに終わってしまった。
25秒経過して、技あり、合わせ技で一本。
残り30秒弱。
土壇場で健太は逆転負けを喫してしまった。
もう少しで、もう少しで……自分の願いを叶えられたのに。
「お疲れ様。残念だったね、土浦君」
「ああ、安藤……」
マキが健太に駆け寄り、彼は目からこぼれそうだったものを必死にこらえた。
「でも、それより……明美、保健室に連れて行った方がいいんじゃない?」
「え?」
振り向くと、明美は試合場で大の字になって伸びていた。
「あれ、なんで……?」
審判が不審そうに明美の顔をのぞき込んでいる。
明美の表情は、だらしなくと言うか、その、まるで……
「おい、君。まさか……押さえの最中に締め返していたのかい?」
「あ、その……保健室に連れて行きます」
説明もそこそこに、健太は明美を保健室に連れて行った。

10)
「はふ……あ……」
気がつくと、青白い天井。
そして、感じる冷たいパンツの感触。
それは、さっきまでのことがただの悪夢ではないことを知らせていた。
「……気、失ってたんだ……」
「そうだよ。大丈夫か?」
不意に健太の顔がのぞき込み、明美は真っ赤になる。
あわてて掛け布団に顔を隠して。
「どうしたんだ、スタミナ切れか?」
「う、うん…………そんなとこ……」
恥ずかしくて、健太の顔が見られない。
自分は、全校の学生が見守る中、試合の最中に絶頂してしまったのだ。
健太の胸に抱かれる格好で。
「びっくりしたよ。押さえてた……一本勝ちした明美が気を失ってるからさぁ」
「そっか……勝ったんだ、あたし……」
「そう。一本勝ち」
すこし、健太は悔しそうな顔をする。
明美は、なんか彼の賭けの意味がわかった気がした。
彼は、本当に、今日この大会で勝つために……一年間、必死で練習していたのだ。
「だから、賭けはおまえの勝ちだよ。好きな頼み、言えよ」
「うん……」
明美は、実は……あまりまじめに考えていなかった。
だから、辞退しても良かったのだけど。
ふと。
「じゃあ、あたしの家に送って欲しい。まだ……ふらふらするから」
「そ、そんなことでいいのかよ?」
「うん、健太じゃないと頼めないから……お願い」
「わかった。じゃあ、せっかくだから……負ぶって行ってやるよ」
健太は、明美がいやがることを覚悟していたが。
「……うん」
彼女の家まで、徒歩15分。
その意味を余り考えずに、明美はその申し出を素直に受け入れていた。

(終わり)
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