修学旅行の夜に。~不確定性原理~・後編


(……くっ、最後……か……)
 100%望みが絶たれる前に、何度妨害しようと思ったことか。
 だけど、もう……最後の一人。
 もし、今……妨害したって、彼女が要美である確率なんてほとんど無い。
 いや、もう……99%違う気がする。
 だけど、先生が彼女の元に行くと……胸が強く締め付けられる。
(ここで……行かなくて……いいのかよ! 本当にっ!!)
 1%の望みに自分を奮い立たせようとしても……やっぱり足がすくむ。
 さっきのボーダーの子が、要美だったら。
 もう、犯されてしまったら……
 勇気を出して妨害しても、徒労に終わったあげく、
 先生と一緒に、女生徒の部屋に忍び込んだ罪で、停学……いや、退学にされるんじゃないか。
 教職員や生徒、保護者の前で謝罪させられて、
 要美を目の前で犯されながら、何も出来なかったと……笑いものにされるんじゃないか?
 そんな気持ちが……どうしても俺の足をすくませてしまう。
(くそっ、くそっ……!!)
 もう、パンツも先ば汁なのか、あふれ出た精液なのか解らない状態で、
 動くと暴発しそうな状況が、いっそう俺を動けなくしてる。
(……俺は……どうしたら……)
 先生は、最後の彼女に手を掛けようとして……
 そこで動きが止まる。
(……?)
 いったいどうしたのだろう?
 先生は……しばらく、その女生徒をにらむと……
 そのまま、部屋を出て行った。
(……え?)
 さすがに7人連続で、精が尽きたのだろうか?
 それとも、ゴムが切れた?

(……)
 俺は、震える手で、そっと……押し入れのふすまを開け、外に出た。
 そこはシンとしていて……横たわった7人の尻は、まるで死人のように身じろぎもしなかった。
(……そんなに……よかったのかよ……!)
 その光景を、
 月明かりに照らされた、まるで時間の止まったような光景を、
 じっと見ていても何も変わらないその光景を、
 眺めていると……怒りがふつふつとわいてきた。
 ボーダーのパンツも、白いパンツも、柄のパンツも……
 はだけられ、或いは脱ぎ捨てられ、
 ある尻は開けっぴろげに、
 ある尻はくねらせるように閉じて……
 でも、自らの愛液に汚された、凄惨な状況を隠すことなく、そこに横たわっている。
 そして……
(……)
 一人だけ、一つだけ。
 水玉のパンツが……そこに、ただ一つ、ぽつんと残されている。
 俺は……ゆっくりと……股間が暴発しないように、本当にゆっくりと、
 そこに向かって歩いた。

 目の前にすると、それは……その水玉は、どうにも要美のイメージに合わなかったが、
 それでも、その尻の大きさ、脚の長さは……
 何となく要美かも知れない、と思えてきた。
 でも、それでいて、俺がここにたたずみ。
(……)
 パンツに手を触れても、抵抗すらしないそれに、
 胸を衝く怒りがこみ上げる。
(そんなに……須藤のやつが……いいのかよ!!)
 その瞬間、頭の思考回路のヒューズが飛び、
 俺は、乱暴にそのパンツをはぎ取った。
(……きゃっ!!)
 至近距離で聞こえる悲鳴。
 だけど、布団越しのソレは、その正体を曖昧にしたまま。
 俺は、目の前に見える割れ目に興奮することも忘れて、
 熱くて、腫れて、気持ちよくて、あふれそうで、どうにもならないソレを、
 もどかしくパンツから取り出すと……
 さっき先生がしたように、
 いや、ソレよりも遙かに乱暴に……そこに突き刺した。
 不意に、場所をきちんと確認していないことに気づいて、
 ひやりとした物が背中を流れるが……
 何度となく先生のそれを見たせいか、
 先端は難なく……彼女の体を抉っていた。
「……い゛……痛ぁ……い……!!」
 尻がこわばり、抵抗を示す。
 だけど、彼女は布団を被ったまま。
 それが俺の加虐心をあおり、なおさら、
 容赦も慈悲もなく、強く、彼女の真芯を刺し殺すかのように……
 ペニスで強く突き刺した。
(うっ……ううっ……き、気持ち……いい……っ!!)
 熱い。その……おそらくは破瓜の血で濡れたそこは、そのせいだろうか、
 それとも、女性のそこは、皆そうなのだろうか?
 ペニスにまとわりつき、締め付け……
 それでいて、慈悲を感じさせるくらい抱きしめるかのように、
 俺にただ、気持ちよさを感じさせてくれていた。
(くそっ……須藤のやつ、こんな気持ちよさを……7人も……っ!!)
 その中に、要美が含まれてるかも知れないと思うと……!!
 悔しくて、でも気持ちよくて。
 だけど、今犯してる彼女が……要美かどうか確かめる勇気もなくて。
 だって……もし、いや……9割9分そうだけど……要美じゃなかったら。
 そんな怖い予想を確かめる気になんかなれなくて、
 逃げるように、ただ、気持ちよくて、とっくに我慢できないペニスを……
 彼女にがんがんと突き立てる。
「うっ……あっ、あっ……!! いっ……たぁいっ……!!」
 布団からうめきが漏れるのを聞きながら、
 でも、そこはとっくに限界を超えていて、
 たまらないピストンを止めることも出来ず……
 遮二無二突き立てたまま、膣深く、二度、三度と……精液をぶちまけていた。

(はぁ、はぁ……ううっ……)
 気持ちいい、膣の熱い奥に、そのまま精液をはき出し続けるのは……本当、気持ちいい……
 鈴口から放たれた精液が、膣のうねりで、奥へ、奥へと……
 まるで吸い込まれるように、受け入れられるように流し込まれていく感覚があって。
 先生と違って、ゴムを用意せずに、そのまま挿入した俺は……
 そのちょっとした恐怖心と罪悪感と、同時に、
 先生も体験しなかったそれに、少しだけ、本当に少しだけ、一矢報いた気持ちになった。
 だけど、
 めまいがするくらい気持ちよくても……
 俺のペニスは、その程度で興奮を収めることはなかった。
(俺も……他の……みんなを……?)
 今犯してる彼女が、要美なんて保証はない。
 だったら、他の……それこそ、さっきのボーダーの彼女を犯すべきだろうか?
 でも、須藤先生の後に挿入するのは嫌だったし……
(二回やったら……おかしいって思うよな……)
 満足げに、脚を広げて横たわる彼女の下腹部を見ていると、
 興奮こそすれ、それを犯す気にはとてもなれずに。
 というか……
(まだ、気持ちいい……)
 俺のペニスに、快楽をまだ与えてくれてる、そのヴァギナから離れる気になれずに。
 俺は、そのまま……また、抽送を始めた。

 腰を前後する度……未だ快楽を感じながら、
 それでも射精の放出感に冷静になってきた俺は……
 目の前の女を突く度、段々、悲しくなってきた。
(なんで……俺、こんなことをしてるんだろう……)
 気持ちいい。だけど切ない。
 気持ちいい、だけど満たされない。
(うっ……ううっ……)
 涙が溢れ、女の尻に落ちる。
 俺は……玉砕覚悟で、要美に告白に来たのだ。
 そりゃ、うまく行けば……あんなこととか、こんなこととか。
 文字通り、『こんなこと』とかも、したかったけど。
 でも、もちろん……『これが最後』って覚悟だってしていたのだ。
 『ごめん、やっぱり、つきあえない』
 周囲に寝静まる……もしかして聞き耳立ててる女子がいる中で、
 恥ずかしいけど、そうやって。
 自分の気持ちに……終止符を打つ覚悟もして。
 なのに、なぜ。
 こんな、誰かも分からない尻を、ひたすらひたすら……
(くそっ……くそぉおおおおおっ……!!)
 叫びたい。
 だけど、声を出す度胸もない。
 確かめたい。
 だけど、怖くて見られない。
 俺も……要美と、この女達と同じなのだ。
 須藤のヤツに何をされるかも分からないのに、ただ好奇心と憧れに昂揚して尻を出すこいつらと。
 要美に告白したい気持ちの高揚のまま、正体を知らない女の尻を遮二無二犯して……
 気持ちよくなっている俺の何が違うんだろう。
(なんで……なんで、こんなに気持ちいいんだよっ!!)
 パンッ! パンッ! パンッ!
 パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!
 突く度、突く度、
 気持ちよさの度に、俺の何かが、際限なく壊れていく。
 要美の重ねてきた過去。
 女の子に対するあこがれの思い。
 彼女に告白しながら……玉砕して、それでも諦めきれない悔しさ。
 クラスにカノジョがいて、仲の良さに羨望と同時に感じた焦り。
 彼女を思いながら、後ろめたい気持ちで……ベッドの上でお世話になりながら、
 でもいつかはそう言う……いい関係になりたかった願望。
 楽しかった記憶。
 切なかった思い出。
 悔しい気持ち。
 ……会いたかった衝動。
(くそっ……信じてたのに……)
 俺は、せめて……自分の感情がやぶれる時は、俺よりももっといい男が来て……
 完膚無きまでに敗北を感じて、
(こいつなら……仕方ないか……)
 なんて、悔し涙に枕を濡らす……なんて、どこかで思っていた。信じていた。
 なのに、こんな形で。
 こんなあっけない形で。
 だけど、それでも……俺にも分かっていた。
 この高揚感。
 そして……この快感。
 許されない背徳の行為に、
 自分の大切にしている物を賭けて、壊して、忘れて、ひたすら粘膜を擦り合う、
 相手の体を求め合う行為は……
 それは、初めての体験には過ぎた、危険な、強烈な衝撃だった。
(ぐっ……うううううっ……!!)
 彼女も同じような気持ちになっているのだろうか?
 俺の激しい付き込みを受けながら尚、膣が熱く、うねうねと締め付けてきて、
 俺の興奮に更に油を注ぐ。
 顔も分からない、気持ちも分からない。
 だけど、高まる感情だけ、確かに合致するのを感じて、
 奥に、奥にとガンガン突きまくる。
 俺は我慢できず、その女の中に……
 さらに熱い白い液を、際限なく流し込んでいた。

(くそうっ……なんで……こんなに……)
 激しく突いても、精液で膣内を満たしても。
 目の前の、尻を掲げた女は、何も言わず。
 ただ、膣をぎゅっと締めて、まるで催促するように……
 俺のペニスを優しくしごいていた。
 それが……堪らなく、堪らなく憎かった。
 彼女は処女だったはずだ。
 それが証拠に、少しペニスを引き抜けば……
 ペニスにまとわりついた白い汚れに混じって、微かに赤い汚れが見える。
 なのに、こんなに乱暴に犯されて、痛いはずなのに。
 こんなに中出しされて、しかも二回も。
(こんなに……従順なんだよっ!!)
 お前は、そんなに須藤のヤツが好きなのか?
 そんなに、セックスが好きなのか?
(……お前はっ!!)
 ぱし~~~~~~~~~んっ!!
 強く、尻をはたく。
 さっきの、須藤の……自分と女を興奮させるような、音を派手に出すだけのビンタでなく。
 その尻の肉の、脂肪の……まるでその中を打ち据えるように、重く強く、
 俺は……その尻を、憎しみを、恐怖を込めて、
 ぱし~~~~~~~~~んっ!!
 叩く。
 ただ……叩く。
 だけど……
「んっ……ぁっ、……はぁっ……!!」
 小さくぐぐもった声がかえってくるだけで。
 彼女は、それでも、その尻を……
 その丸くて白くて、はたいても尚、その柔らかさを手のひらに伝えて、気持ちよくさせてしまう……
 そんな尻を、俺に掲げたままだった。
 もっとも……俺のペニスも彼女に刺さったまま、
 頽(くずお)れようとしても許さないと言わんばかりに天を仰ぎ、
 そんな剛直に、許しを請わんばかりに、
 はたく度に、彼女は……膣をやわやわと締めて、俺を気持ちよくする。

 俺の胸の中を、複雑な気持ちがよぎった。
 今、この……俺に犯されている女が、もし、今犯しているのが俺、拘太だと分かったら、
 この女が要美じゃなければ、
 いや、この女が要美だとしても、
 ぜったい悲鳴を上げて拒否ってる筈なのだ。
 だけど、何も言わずに、
 尻をはたこうが、二回も中出ししようが、
 従順に尻を上げている。
 それだけ須藤に気持ちを開いているとも言えたけど、
 今……犯してるのは、この俺、黒田拘太なのだ。
(このまま、何をしても……)
 体中はたいたり、首を絞めたりしても、抵抗しないのだろうか……?
 そんなどす黒い気持ちがせり上がるが、
 だけど、自分の正体をばらすような、激しい行動は取れない。
 ……やっぱり、もしかして要美なら、
 その1%の可能性でも、彼女を乱暴には出来ない……
「……」
 周囲の、事の終わった女生徒は、相変わらず身動き一つ取ることなく。
 俺は、膣の求めるまま、
 快楽の誘うまま、
 ピストンを再開させた。
 ぱんっ、ぱんっ……ぱんっ……
 しんと静まりかえる部屋に、少し間抜けな、でも淫靡な音が響く。
(あいつの彼女……この部屋だったっけ……?)
 ふと、信治の彼女、佐伯がこの部屋にいた、と思い出す。
 もう、須藤に犯されて伸びてるかも知れない。
 彼女は小柄だったと思うけど……
 だけど、今、俺が犯してる女がそれの可能性だってある。
 そうすれば、俺は……友人の彼女を犯している……
 寝取っていることになるのだ。
 こうして……
 ぱしんっ!!
「……んぁっ……!!」
 尻をはたきながら。
 すると、ペニスをぎゅっと締め付けるのと同時に、気持ちよさと……気持ち悪さがこみ上げて、
 暗い目眩を覚える。
 12.5%の確率で、俺の思い人。
 12.5%の確率で、友人の彼女。
 それを犯し、だけど……彼女たちは、皆、須藤に体を許すつもりでいた。
 俺は、どの事象を……望めばいいんだ……?
(ううっ……!!)
 悩んでも、答えは出ない。
 俺には……今、気持ちいいことしか、もう残されていないのだ。
 ただ、ただ……快楽を求めて、難しいことを全て忘れて。
「……んっ……はぁっ……!!」
 ぱしん! ぱしんっ!!
 ぱんぱんぱんぱん……!!
 ひたすら、彼女の尻を打ち据え、突き込んで……
 彼女の汗と、俺の汗が混じりながら、
 部屋の暗さに、白い水蒸気が見えるほどの熱気を感じながら。
 冷めた気持ちで……
 俺は、カリを、彼女の奥深くに沈め込んだ。
 彼女の子宮を目指して、
 彼女の子宮口に目掛けて……
 どくんっ!!
(うっ、ああっ……)
 尽きない、濃い精液を、彼女の奥に……
「ああっ……!! 熱いっ……ああああっ……!!」
 がっちり、逃がさないように……彼女の尻を掴んで。
 どぴゅっ!! どくっ……どくどくっ……!! どくんっ……!!
 俺は、ありったけの精液を……彼女の膣奥に注ぎ込んで、
 丁寧に、二度、三度と攪拌した。
 ぐちゃっ、ねちゃぁっ……
 卑猥な音がして、摩擦力が強くなる。
 ひくひく……と、彼女の膣壁が震え、悦びを表してるかのように感じる。
(……)
 『彼女』はどんな気持ちだろうか?
 須藤に中出しされて、妊娠の可能性を心配するだろうか?
 あるいは、逆に喜ぶのだろうか?
 須藤の家庭はの心配はしないのだろうか……?
(……)
 しかし、それを、俺がしたと知ったらどう思うだろうか?
 要美なら。
 佐伯なら。
 一転、俺を恨む気持ちに一生胸を焦がすことになるのだろうか?
 俺は、この快楽から一転、人生のどん底にたたき落とされるのだろうか……?
(……どうでも良いか、そんなことは……)
 俺は……ただ、ただ、疲れて……
 ゆっくりと、ペニスを彼女のそこから引き抜いた。

 それでも、彼女は尻を高く持ち上げたままだった。
 それは、まだ催促しているようにも見えたし、
 すでに力尽きて、倒れることもままならないかのようにも見えた。
 ただ、その割れ目から、わずかな血の汚れと、
 そして、湯気が立ちそうに熱い、泡だった精液が、
 ごぷ、と微かな音を立てて、こぼれていくのが見えた。
(……)
 俺はティッシュを取り、それを綺麗に始末した。
 それは、1/8の確率で思い人であるはずの彼女を綺麗にしたかったのかも知れないし、
 単に、証拠を隠滅したかっただけなのかも知れない。
 そして、そこを綺麗にし終わると……
 呆けたように、その部屋を後にした。

「ふぅ……」
 今までの悪夢が嘘だったかのように、廊下は静かだった。
 もう、先生を警戒する気力もなかったけど……
 運良く、誰も来る気配もなくて。
 ただ、ふと……隣の部屋のドアが少し開いていたのに気づいて、
 俺は……嫌な胸騒ぎを覚えて、そのドアを覗き込んだ。
 ああ……
「なんで……なんでなんだよ!!」
 そこも、そして……隣の部屋も……!
 そこに寝ていた女子生徒は、全員尻を出したまま。
 というか、下半身裸で、無造作に散らばっていた。
 須藤先生は……須藤の野郎は……
 あの部屋、8人だけじゃなく、
 総ての部屋、クラス総勢24人を犯して回っていたのだ!
 俺が犯した一人以外、
 みんな、みんな……
「うっ……ぐっ……」
 俺は、トイレに駆け込み、胃の中の物をすべて吐き戻していた。

 その夜に、大切な物を……総て失った、
 そんな喪失感だけが残った。

「結局さ、どうだったんだよ? 昨日は……」
 信治に、昨日の夜の戦果を聞かれる。
 俺は、そのさわやかな友人の顔を、どういう表情で見て良いか分からず、
 ただ、下を向いて。
「ああ、先生が見回りに来たから……諦めたよ……」
「なんだよ、だらしないなぁ……」
「もう、良いよ。要美は……女は、もう……こりごりだなぁ……」
「……?」
 どうせ、直ぐ……受験が来る。
 そして、大学に行き……知り合いはほとんど入れ替わってしまうのだろう。
 この精神状態で、受験を乗り切れるのか、って問題もあるけど、
 そんなことは些末な気がした。
「お、りっこ。おはよう」
「あ、のぶくん、おはよー」
 にっこり笑って手を振り合う。
 俺は……吐き気がこみ上げて、堪えるのに必死だった。
「……どうしたんだ? 拘太?」
「いや……何でもない……」
「ん? のぶくん、先行くよ?」
「ああ、じゃあな」

 佐伯は信治を置いて、他の女子と雑談しながら。
「でさー、なんかゴミ箱、すごいことになってたよね?」
「隣の部屋も、すごかったらしいよ。一緒に……処理してきたけど」
「他の部屋も……みんな?」
「でも、うちの部屋だけ……一つ、足りなかったって噂」
「……マジ?
 準備してなかったのかな…… それとも、一人だけあぶれたとか?」
「それはないんじゃない。朝、最初に起きたけど……」
 彼女たちは、事の顛末を……おそらく適当に伏せつつ、話しながら去っていった。
「あいつら、何話してるんだろうな?」
「さあ、こっそり酒でも買ってたんじゃね?」
「マジかよ……」
 適当な言い訳に、友人は驚くけど、
 真実を知ったら……こんな物では済まないだろう。
「俺は、もう……恋愛はごめんだな」
「何言ってるんだよ。いいぞ、彼女は」
「まあ、何も知らなければな……」
「え?」
 その秘密は、彼女たちも、そして俺も、
 きっと墓場まで持ち去って。
 俺にだけこんな遺恨を残して。
 それでも、この話は、これで終わりのはずだった。

 事件は二ヶ月後。
 丁度受験で、教室の生徒がまばらな頃に起こった。

「うっ……!!」
 教室で、いきなり要美が吐きそうになった。
「先生! 滝沢さんが……!!」
「誰か、保健室に連れて行ってやれ」
 仕方なく、俺が……要美を保健室に連れて行く。
 トイレで軽く、気分が回復するのを待って。
「どうしたんだよ、受験疲れか?」
「ごめん、出来ちゃった……かも……」
「出来……た……?」
「ここのところ、来てなかったの。あの日」
 保健室で診察され、
 要美は……妊娠三ヶ月だったことが発覚した。

 この事件はたちまち職員会議で取りざたされ、
 修学旅行の女子の班の部屋長が呼ばれ、
 須藤が全員を犯して回ったこと。
 それから、要美だけ避妊に失敗し、孕ませてしまったことが証言された。
 須藤は即日解雇。教員資格を剥奪。
 そして……
「本当に産むのかよ?」
「うん。だって……私の子だし。殺すなんて、出来ないよ……」
 お腹の子を産む、と宣言した要美に、
 須藤は養育費を支給することを誓約させられた。
 そして。

「ママ~、行ってきます!」
「わたしも! 行ってきまーす! あ、お兄ちゃん……まって!」
「はい。行ってらっしゃい。ほら、あなたも……急がなくて良いんですか?」
「ああ」
 二人が登校するのを見守りながら。
 そう。
 俺は……結局、あれから5年後。
 大学を卒業してから、要美と結婚したのだ。
 要美が身籠もった子は、実は双子で。
 出産にはものすごく苦労したみたいだったけど。
『でね、須藤先生も見に来たんだけど、二人とも似て無くって』
『あはは、天罰?』
『でも、誰に似たんだろう? なんか見たことあるような顔のような……』
 双子で、しかも男の子と女の子。
 先生、どんだけがっついたんだよ、と女子の間では笑い話になったみたいだけど。
「本当に良かったのか、産んで……」
「当たり前でしょう? あの子達のない生活なんて、考えられないわ」
 須藤から、まだ仕送りは続いていた。
 だから、生活費には全然困っていなかったんだけど、
 育ち盛りの子供二人じゃ、世話に手一杯で……
 でも、そろそろ、もう一人……
 『自分の』、子供が欲しいなとも考えてるんだけど。

「本当に、あなたには感謝してるわ。
 母さんだって、よくもらってくれたって……本当に驚いてたし」
「そうだな……」
 でも、未だに考えてしまうのだ。
 あの子達は……『誰の子だったんだろう』……って。
 確率1/8で、俺は当たりを引いたのか。
 そもそも、避妊した須藤と、避妊もせず3回も中出しした俺と、どっちの可能性が高いのか。

          、、、、、、、、、、、

 いや……本当は、もう一つ可能性があって。


 なぜ、須藤は……一人残して、あの部屋を出たのか。
「ほら、あなた。そろそろ……電車出ちゃうんじゃない?」
「ああ、そうだな」
 名残惜しそうに、体を離す要美を見ながら。
 その可能性を反芻しながら。
 でも流石に、それは……もっとも怖い想像になってしまいそうで。
 未だに、本人に聞くことが出来ない。
 いや……たぶん、一生……
「じゃあ、行ってくるよ」
「うん、早く帰ってきてね? ……ω」
 結婚以来ずっと続いてる、お出かけのキスを受けて。
(長い人生じゃ……そんなこと、些末なことかな……)
 ぼんやりそう考えながら、
 俺は家を後にした。

(終わり)
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